千里の道も一歩から
古代中国の思想家、老子。
中国の三代宗教と言われる儒教、仏教、道教。その中の道教の基礎となる思想を築いたとされていますが、実在したかどうかもわからないなど謎多き人物でもあります。
今回はそんな老子の名言を紹介し、その言葉たちからの学びである「足るを知る生き方」について考察しました。
老子とは?どんな人? 生い立ち・生涯・経歴を紹介
謎の人物像
老子の生涯に関する確かな書物はありません。実際にいなかったという説や複数人説など様々な伝説が伝えられてます。また13回生まれ変わったり、1000歳まで生きたという神話のようなものもあります。
老子の記述がある最古の書物と言われているのが、古代中国の歴史家、司馬遷が書いた「史記」の中にあります。
司馬遷は紀元前100年ごろに生きていたとされています。史記によると老子は紀元前500~400年の春秋戦国時代(人気漫画キングダムの舞台)に生きていたと言われています。
3人の老子候補
2000年以上前に書かれた史記の中でも老子の存在は曖昧で、司馬遷は3人を老子の候補としてあげています。
その中の1人が老莱子(ろうらいし)。楚という国で世俗から離れた隠士の暮らしをしていたとされ、田舎の年老いた両親に尽くす心優しき人物でした。
またもう1人が太史儋(たいしたん)。彼は周の国の歴史家であり、預言者でもありました。その後中国を統一する始皇帝の出現も予言していたと言われています。
老子最有力の人物、老耼ろうたん
3人目が老耼(ろうたん)と呼ばれる人物で、3人の中で最も詳細に記述がされており、老子の最有力であると言われています。
老耼は周の国で生まれ、長いこと貯蔵庫を扱う書記官として働いていましたが、戦国の乱世で周が衰退すると、身分や仕事を捨て旅に出ました。
旅の途中にあった関所で、長官の尹喜(いんき)という人物から「教えを授けてほしい」と懇願されると、5千字ほどの「老子道徳経」を書き記します。それが道(Tao)と呼ばれる道教の始まりとなりました。
中国の三代宗教の一つ
その後「無為自然(ありのまま、自然に委ね生きること)」を核に置いた道教は、儒教や仏教と並び、中国の三大宗教と呼ばれるようになります。
日本にも4世紀ごろに伝来されたと言われており、陰陽道などにも大きな影響を与えたとされています。
老子の名言
本当の親切とは、親切にするなどとは考えもせずに行われるものだ。
賢者は人の上に立たんと欲すれば、人の下に身を置き、人の前に立たんと欲すれば、人の後ろに身を置く。かくして、賢者は人の上に立てども、人はその重みを感じることなく、人の前に立てども、人の心は傷つくことがない。
道はいつでも何事も為さないでいて、全てのことを為している。
困難なことは、それがまだ易しいうちに始めなさい。偉大なことは、それがまだ小さなうちにやりなさい。世界中の困難な問題も、かつては易しかったに違いない。偉大なことも、かつては取るに足らない小さなことだったに違いない。千里の旅も、第一歩から始まるのだ。
天は万物を生みて所有せず、育ててこれを支配せず。
他人を知るものは賢いが、自分自身を知るものは目ざめた人である。他人に打ち勝つものは強いが、自分自身に打ち勝つものは偉大である。
優しくなりなさい。そうすれば勇敢になれる。つつましくなりなさい。そうすれば広い心を持てる。人の前を行かないようにしなさい。そうすれば人を導く者になれる。
言葉から見た、老子てこんな人!
受け身で生きた人
紀元前からの長きに渡り、伝えられてきた道教。現在でもその信者数は世界で3千万人ともいわれ、その教えは多くの人に影響を与えています。
老子が実在したかどうかはわかりませんが、もしいたとするなら、とても受け身の人生を歩んだのだと、彼が残した言葉を通して感じさせられます。
何かを成すには行動と努力が大切。これまで紹介してきた偉人にもそう語る人が多かった中で、老子は生きることに力を入れず、ただありのまま、その自然の流れを大切に考えました。
「上善は水の如し。水は善く万物を利して争わず。」
老子の言葉にもあるように、それは何もしないように見えて、多くの命を支えている「水」などの自然物から悟ったことでもありました。
自分を声だかに主張するのではなく、あるがままを受け入れ生きた人。それが老子という人でした。
老子の名言からの学び。[足るを知る生き方]
足るを知り、感謝する
今回の老子の名言で印象的だったのが「他人を知るものは賢いが、自分自身を知るものは目ざめた人である。他人に打ち勝つものは強いが、自分自身に打ち勝つものは偉大である。」という言葉でした。
「隣の芝は青い(他人の物がよく見えてしまう)」ということわざもありますが、実際に大差ないことでも、他の人が持つ才能や環境が気になり、よく見えてしまうことがあります。
英語でも「The grass is always greener on the other side of the fence」と言われています。このことわざは日本発祥ではなく、海外から来たもののようで、まわりが自分よりもよく見えてしまうというのは、国境関係なく誰しも持ってしまう感覚なのかもしれません。
しかし老子はそんな外的なものに囚われることなく、自分自身や取り巻く環境を受け入れる生き方を唱え、外に目を向けるのではなく、自分の中に目を向けることの大切さを語っています。
まわりと比べず。他人と比べず。
また老子は「足るを知る」という有名な言葉も残しています。それは欲張らず今に満足することが、心を豊かに穏やかにすると説いています。
不足な点を見つけ、努力する行動も大切ですが、一方で今現在に与えられたものに満足し、感謝する心持も忘れてはいけないのだと、今回の老子の言葉に触れて感じさせられました。
足るを知り、感謝する
自然であることの大切さを説いた思想家、老子の名言からそれを学びました。