今回の本の名言で取り上げたのは日本グラフィックデザイナー界の巨匠、田中一光の著書である「田中一光自伝 われらデザインの時代」です。
商業デザインが始まった昭和期を代表するデザイナーで、現代にも残るLOFTのロゴデザインや無印良品の考案など、次世代のデザイナーにも多大な影響を与えた作品やプロジェクトを残してきました。
2002年に惜しまれながらも亡くなった田中一光。この本はそのわずか1年前に自らの生涯をふりかえるように書かれた自伝です。
幼少期から死の間際の個展の話までその人生が細かに綴られています。また自身が生涯を通して向き合ってきたデザインに対する考え方や、どのように仕事に向き合ってきたのかも垣間見ることができ、日本のデザイン界を先導してきた人の歩みを感じ取れる一冊です。
著者、田中一光の紹介
田中一光は1930年に奈良で生まれます。幼少期から映画が好きで、学校の帰りにはよく近くの映画館に通っていたといいます。
中学生の時には第二次世界大戦が起こり、まともに勉強もできない時期を過ごします。戦争が終わり卒業後の進路を考えていた一光は、担任の先生から美術学校を勧められ、現在の京都市立芸術大学の前身となった京都市立美術専門学校に入学します。
専門学校を卒業すると大阪の鐘紡に入社し、テキスタイルの部署に配属されます。当時、関西でも指折りのクリエイティブ組織であった鐘紡で一光は多くの刺激を受けました。
その後、産経新聞に転職し、ポスターなどの広告物を作るようになった一光は、次なるステップとして東京移住を考えます。東京では広告デザイン会社であるライトパブリシティに入社し、様々な企業の広告を手掛けます。
33歳の時に独立し、自分の事務所をかまえると西武グループのデザインや大阪万博、また無印良品を考案するなど多方面に活躍していきました。
そして2002年、71歳の時に急性心不全により、その生涯を終えることとなります。
田中一光についてはこちらに詳しく書いています↓
田中一光の本の名言
デザインは異種交配していかないと次に発展しない。常に何と結びついたらいいのかを考えるのが大切なのである。例えば空間なのか、テクノロジーなのか、その異種交配の装置を作ることでデザインの領域が拡大していく。
相手任せのような言い方になるが、優れたロゴやマークを作るのはもちろんデザイナーだが、採用する側にとってそれを得られるかどうかは運だと思う。デザイナーの立場で言えば、非常に伸び盛りで勢いに乗っているときにポッといいアイデアがひらめくし、クラ イアントとデザイナーとの相性がいいと、うまくいくことが多い。それは、ロゴやマークが単純な要素で成立していることによる。シンプルであるが故にいろいろな偶然性が大きく左右するのである。
ロゴやマークは、まずキャスティングで決まるし、デザイナーのコンディションで決まるということである。有名か無名かはそれほど重要ではなく、デザイナーの資質がどれだけクライアントに合っているかが大切なので、後はだれでも同じとさえいえる。
デザイナーの使い古した技術での過剰な自己表現は、造形力の良い悪いは別にしても、 画家自体の強い個性に対して、何とも浅はかな印象を与えることが多い。美術作品にはそのような過剰デザインは不要なのだ。
歴史や伝統の重みや、異文化や作者の天分に対する畏れも、時にはデザイナーを脅かす。まして名画と称されるものほど観客の思い入れは深い。文学的な解説によって虚像化されている。そんな大衆の視線を背後で感じながら、デザイン的執刀を下すことにはかなり勇気がいるし、もし判断を間違えると恥ずかしいし、やっても無駄な気もする。
社会情勢や経済情勢や風俗的な流れといったさまざまな問題を細かく判断しながら、その上に自分の個性を反映させたいと願っている。その場合、すべてを自分の手で行なうのではなく、デザインの総合性という観点から、時にコピーやイラストレーション などを他人に依頼するほうが、美しい三角形となることが多い 。つまりキャスティングに よってアートディレクションの半分は完成するわけで、それは演劇を上演する作業ととても似ているのである。
企業は投資効率を高めようとするし、デザイナーは注目されたい。デザインに社会的な 一つの理想型があるとすれば、その共同作業が自立した消費者といい関係をもてるということである。
田中一光という人は、どのような行動にもまずその意義を考える人だった。立派かどう かを考えるのではない。自分はなぜそれをするのか、自分にとってどう面白いのか、そし て何が大事なのか、常にそういう意識を問う人だった。
田中一光自伝-われらデザインの時代の名言|田中一光の本の名言からの学び
イノベーションの起こし方
日本を代表するグラフィックデザイナーとして商業デザインのみならず、日本文化にも影響を与えた田中一光。
デザイナーとして時代を牽引してきた彼の自伝で印象深かった言葉が「デザインは異種交配していかないと次に発展しない。常に何と結びついたらいいのかを考えるのが大切なのである。例えば空間なのか、テクノロジーなのか、その異種交配の装置を作ることでデザインの領域が拡大していく。」という名言でした。
常に発展と成長を考え、世の中に変革を起こしていく。デザインとはそんな仕事なのかもしれません。
その上で大切なのが、現状の概念に縛られないこと。常に異文化や異業種と関わり合いながら変化を起こしていくことが大事なのだと、この本の言葉に触れて感じさせられました。
成長とは変化でもあります。そしてその変化を起こすのは自分にない個性や概念に触れた時です。自分にないものを拒否するのではなく、受け入れ、吸収し学ぶ。
イノベーション、革新はそんな自分にないものを受け入れることから始まるのだと、今回の本「田中一光自伝 われらデザインの時代」の名言から学びました。