今回の本の名言で取り上げたのは日本の建築家、安藤忠雄さんの著書「仕事をつくる―私の履歴書」です。
安藤忠雄さんは高校卒業後、独学で建築を学び建築士資格を取得た異色の建築家です。コンクリート打ちっぱなしの独創的な個人住居、住吉の長屋が高く評価されたことをきっかけに、商業施設や美術館、海外の建築をも手掛けるようになり、現在も世界中で活躍しています。
「仕事をつくる―私の履歴書」は安藤さんの生い立ちからはじまり、代表的な仕事を当時のエピソードと合わせて紹介しています。
専門知識の多い建築や設計の分野を独学で習得し、世界でも名だたる建築家になった安藤さんの半生に触れ、その仕事への取り組みと、建築に向かう想いを感じられる一冊です。
著者、安藤忠雄の紹介
安藤さんは1941年に大阪で生まれます。生まれてすぐに安藤家の跡取りのために祖父母に引き取られ、育てられました。
幼少期はとてもやんちゃで喧嘩もしょっちゅうだったと言います。高校生になると双子の弟さんの影響でボクシングを始め、17歳の時にプロデビューも果たします。
高校卒業後、建築を学びたいと思っていましたが、経済的な理由から大学進学は叶いませんでした。そこで友人に頼み大学で使う専門書を買い込み、独学で勉強するようになります。毎晩深夜まで勉強した甲斐もあり建築士の試験にも一発合格し、夢であった建築家としての道を歩き始めます。
しかし学歴も実績もなくスタートしたため、最初は仕事はほとんどなく、あっても個人住宅などの小さい仕事ばかりでした。それでも35歳の時に設計した「住吉の長屋」が注目されると、少しずつ大きな仕事へとつながっていきました。
その後も「光の教会」や直島アートプロジェクトなど、数々の話題作に携わるなど、日本を代表する建築家になっていきます。79歳になった現在も、世界各地の建築に携わり活躍を続けています。
安藤忠雄さんについてはこちらに詳しく書いています↓
仕事をつくる―私の履歴書のあらすじ
この本は安藤さんが生まれた大阪、幼少期の出来事からはじまり、学校を卒業、独学で建築を勉強し建築家となるまでの過程、またそこから携わった仕事などが、それぞれ小さい章にまとめられ書かれています。
実際の仕事紹介に入ると、建築物の写真と合わせながら当時のエピソードと共に紹介され、作品に込められた想いも一緒に綴られています。
また出版されたのが東日本大震災の翌年ということもあり、未来に向かいどう生きていくか、その強いメッセージを自らの経験と重ね合わせながら、語りかけています。
仕事をつくる―私の履歴書の名言
モノをつくろうとする人間にとって、大切なのは、どれだけの感動に出会えるか、それを若い多感な時代に積み重ねられるかにかかっているのだと、改めて思う。
私自身、旅の経験から多くを学んだ。とにかく自分なりの見方というものを探りながら考え追求しつづけた。ただ建築物の表層を見るのではなく、つくり手の人間性やその人生、そしてその建築が出来た時代性も含めて、読み取らなくてはいけない。ひたすら歩いて建築を見ながら、思考を巡らす。その経験が、貴重な財産となる。
数々の西洋建築を見て歩くうち、建築とは、人間が集まって語り合う場をつくる行為にほかならないと、気付いた。集まりくる人々の心と心をつなぎ、感動を刻み込むのが建築の真の価値なのだと、強く認識した。
私は、当時から仕事は自分でつくらなければならないと考えていた。事務所に座っていても、仕事が向こうからやってくるわけはない。実績のない私に、依頼者など来るはずもないのだ。学歴も、社会的基盤もないとは、こういうことかと痛感させられた。
これからは、アジアから見ると、日本はどう見えるのかということをもっと考える必要がある。私も、仕事を通して「アジアはひとつ」「地球はひとつ」を実感している。お互いに助け合い、支え合いながら新しい世界をつくるべき時を迎えている。
建築をつくる行為は、人を育てることに似ている。人間と同じように、敷地にも性格がある。一 つとして同じ条件は無い。私たちはまず、既存の建物や、街並みの風景など、その敷地の個性を的 確に読み取り、それを活かして計画に臨まなければならない。
「経済は文化のしもべである」という言葉は、その信条を的確に表している。人間が生きるために本当に必要な力を生み出すのは経済ではなく、芸術・文化なのだ。芸術こそが人生の道標となり、人々の心を豊かにする。
新しいことに挑戦する際には大きな不安を伴う。しかしそれを乗り越えて初めて得られるものもある。挑戦はまた、多くの敵をつくる。展覧会は自分の建築への思いや考えを発信する場だが、好評で迎えられることはほとんどなく、多くの場合、批判の目にさらされる。しかし、批評の場にみずからを置くことで、自分を見直すことができる。その経験は、後々までの大きな力となる。
青春とは人生のある期間をいうのではなく、心の持ち方を言う。…..人は年齢を重ねただけで老いるのではない。理想を失ったときに初めて老いる。
小さな点からでも、情熱をもって辛抱強く続けていれば必ず実はなる。大切なのは、こころをつないでいくこと。人間も建築もまちづくりも一緒である。
仕事をつくるの名言|安藤忠雄の本の名言からの学び
モノに感動をのせる
数々の傑作と呼ばれる建築を生み出してきた安藤さん。この著書には、その作品たちが生み出される過程や苦悩、また喜びなどの感情も書かれています。
建築だけでなく「作ったモノ」というのは、基本的に結果(モノ自体)が全てです。人々には結果のみが見られ、伝えられます。
僕もデザインを仕事にしていてそう感じることが多いです。いくら思いや理論を込めて作ったとしても、見た人ににとってその情報はそれほど必要ないこともあるでしょう。
脳は好き嫌いを一瞬で判別すると言われているように、人は作られたモノを見て、理屈なく美しい、可愛い、カッコイイなどの感情を持ちます。そして時にはそれ以上の特別な感動を持ったりもします。
今回の安藤さんの言葉に触れて、そんな結果として表れた感動を引き起こすのは、作り手が経験した過程だと感じさせられました。
過程が知られることはあまりありませんが、過程で起こった出来事、作り手の情熱や考え抜かれた苦悩などは、結果として目に見えなくても、きちんとそこに宿っているのです。
そんな作り手の見えない“モノ”を我々は感じ取り、伝えなくても感動することができる。
だから何事もまず自らが感動し、そこに心を込め、妥協なく作ることに向き合うことが大切であると今回の「仕事をつくる」を読んで学ぶことができました。